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流氷の動物たち

冬のオホーツクに生きる動物たち

流氷がやって来る時期のオホーツク沿岸では、様々な動物を観察することが出来ます。 オホーツクの自然を見守ってきた人たちの目を通して、それらの動物たちの生態をご紹介します。

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冬を生きるエゾシカ

文&写真: 北原 理作 (東京農業大学 エゾシカ学研究員)

流氷観光の際に、知床半島を訪れたらほとんどの人たちが出会える動物の代表がエゾシカです。ヒグマと違いエゾシカは冬眠しません。雪が多く、寒さも厳しい長い冬をエゾシカたちは、どのように生き延びているのか、知床半島のエゾシカを例に紹介します。

実は、明治時代エゾシカは、大雪と乱獲により絶滅寸前になりました。一度は、知床半島からも姿を消したのではないかと考えられております。

現在、知床半島でエゾシカが沢山観察可能になったのは、手厚い保護(特にメスジカに対して)の成果(保護区の存在)で、大雑把に言うと1990年以降です。

もう1つは、栄養状態の向上に伴う繁殖率向上が後押ししています。繁殖率向上とは、多くの母ジカが子を毎年必ず産み、その子ジカが無事冬を乗り切り、また孫が出来るということです。

いずれにしても、まず春から秋に好物の牧草を十分食べることが出来る環境が必要で、冬には、なるべく雪が少なく、冬でも青々としたササを食べることが可能な条件が必要です。春の訪れは、早いほど良いということです。

エゾシカの越冬と気象条件

近年暖冬だとか言われつつも記録的なドカ雪が降ったり、冬に雨が降ったり、流氷が来ないとか・・・、温暖化の影響なのかどうかはさておき、気象条件が安定しないという実感がオホーツク沿岸における日々の暮らしの中で実感出来ます。それらの影響は、野生動物にも及んでいることは間違いありません。

気象データを見てみましょう。

この図は、知床半島ウトロ地区で気象庁が観測記録したデータについて1989年以降毎年の最深積雪深(折れ線)と鹿にとっての冬の厳しさを棒グラフにしたものです。一番右は平年値です。

棒グラフが高いほど積雪のダメージをシカが受けていると想像出来ますが、必ずしも折れ線と傾向が一致するわけではありません。棒グラフは、どれだけの日数、冬の主食であるササを雪の下から掘り起こすのが大変であったかを示しており、その間エゾシカは、枝や樹皮を食べて飢えを凌いでいます。

しかし、枝はともかく樹皮は栄養が乏しいので、シカは次第に脂肪を消費し、やがて餓死します。最初に子ジカ、次に秋の繁殖期に体力を消耗した大きなオスジカが死に、メスジカや若いオスジカは、おそらく100日のラインを超えない限り、通常は死なないと思います。

よって、先ほど、1990年以降シカが沢山観察できるようになったと書きましたが、その前後で、越冬条件が非常に良かったことが、図から想像出来ます。2000年以降の方がむしろ悪いですが、自然淘汰が強くかかり、シカの生息数が減少に転じるほどにはなっておりません。つまり、100日のデッドラインを上回る年が連続して起きていないということです。

世界遺産「知床」のエゾシカ


もう1点知床半島のシカに有利な特徴を挙げましょう。それは、地形です。海岸部まで傾斜が急な知床半島は、傾斜や強風により、雪が冬でも積もりにくい場所が沢山あり、そのような場所が、冬の餌場として利用されていると考えられます。

逆に、近年の知床の懸念材料を挙げましょう。それは、樹皮食い、枝食いだけでなく、増えたシカが夏に林内の草本類を食べ尽くし、冬はササを食べ尽くし、餌の資源量や回復速度が、生息数と釣り合っていない状況にあるということです。

例えば、知床半島に多いチシマザサは、シカによる採食圧に弱いタイプのササであり、衰退して消失した場所が沢山あります。

森林の更新が停滞し、多様性が損なわれつつあるのが現在の知床です。それでも、シカは、落ち葉などを食べて、生き延びると言われておりますから、もし今後釣り合いがとれたとしても、その時の森林の状況というのは、世界自然遺産には相応しくない森になっていると思います。

樹皮食いや餓死は、雪の影響が強いと思われますが、特に現在のように過密状態により自然の収容力が年々低下し、越冬地の定員オーバー状態だと、雪が多くても少なくても、知床半島のように海岸部の標高の低い場所で越冬している場合、越冬途中で餌が底をついたからといって、餌を求めて大きな移動は出来ませんので、春を待たず死ぬことになります。先ほど、100日を超えない限り通常は死なないと書きましたが、通常というのは、定員が収容力以内に収まっている場合ということです。さらに、同じ知床半島の羅臼側とウトロ側で、これらの状況は異なっています。

今回は、この辺で終了しますが、現在、エゾシカと我々がどう関わっていけば良いのか、いろいろ模索している段階です。例えば、世界自然遺産に登録されたことは喜ばしいことですが、様々な保護区の設定は、残念ながら天敵であるオオカミを失ったエゾシカという動物が存在する限り、エゾシカを保護出来たとしても、植物群落や生息地の保全は出来ないということが、ほぼ確実です。そこで我々はどうすれば良いでしょうか?ぜひ旅をしながら、考えてみて下さい。

北原 理作
東京農業大学オホーツクキャンパス エゾシカ学 研究員
http://www.bioindustry.nodai.ac.jp/~ezosika7/


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