トップ > 流氷にあえるかな? > 冬のオホーツクに生きる動物たち
流氷がやって来る時期のオホーツク沿岸では、様々な動物を観察することが出来ます。 オホーツクの自然を見守ってきた人たちの目を通して、それらの動物たちの生態をご紹介します。
アザラシ | オジロワシとオオワシ | クリオネ | エゾシカ
文&写真:金指 功
その愛くるしい表情や仕草がとても可愛らしいアザラシ。とても人気のある野生動物です。 そして流氷シーズンの到来と共に網走をはじめとするオホーツク海沿岸各地ではアザラシを見る機会が多くなります。
北海道沿岸で見られるアザラシはゴマフアザラシ、ゼニガタアザラシ、クラカケアザラシ、ワモンアザラシ、アゴヒゲアザラシの5種ですが、網走で見られるアザラシの多くはゴマフアザラシです。
ゴマフアザラシは体長150〜170センチくらい、体重は平均120kg前後。 その名の通り、全身にゴマ模様があるのが特徴ですが、私自身が網走で見てきた中には銭型に近い模様だったり、全身が黒っぽかったりするものもあり、その体色や模様には個体差も結構あるようです。
網走では主に流氷が近付く1月中旬頃から海明けを迎える3月中旬頃にかけてその可愛らしい姿を見ることが多くなります。秋に見られたりなど多少時期が前後することもありますが、まさに流氷シーズンと重なりますね。
流氷を見るために網走を訪れる方々の中には砕氷観光船「おーろら」に乗られる方も多いと思いますが、運が良ければこの「おーろら」から流氷の上に寝そべっているゴマフアザラシを見られる事もありますよ。
そしてこの時期、アザラシが見られるのは流氷がある海とは限りません。 網走の冬の風物詩、氷上ワカサギ釣りで知られる網走湖。 冬は全面結氷しているのですが、この網走湖は網走川でオホーツク海と繋がっています。その距離は5kmくらいで、高低差が無いため潮の干満の影響を受け、川が凍ることは少なく、凍ってもその氷は薄いものです。 アザラシはこの網走川を通って網走湖の湖口までやって来て湖の氷の先端部に乗っかるのです。
ここでは冬の間、頻繁に海と行き来しながら数頭がこの湖口に居ついており、比較的高い確率で見ることができます。 網走湖は餌となる魚も豊富で、海に比べれば穏やかな環境ですから居心地が良いのかもしれませんね。 そして春が近付くと去り行く流氷を追いかけるように姿を消します。
網走から流氷が離れる頃、それはゴマフアザラシにとってその流氷の上で出産、育児を始める季節でもあるのです。 私自身はまだアザラシの赤ちゃんを直接見たことはないのですが、アザラシの多くは出産育児に流氷を利用します。 生まれたばかりの赤ちゃんは最初の2〜3週間は泳ぐことができないほか、シャチなどの天敵から身を守るためにも流氷は必要なのです。
近年の地球温暖化による流氷の減少は、北海道のアザラシへの影響は今のところ具体的にはまだ聞いていませんが、既に何らかの影響はあるはずです。 アラスカ、カナダなどの北極圏のアザラシは大変深刻な事態になっていると聞きます。
2009年の冬、オホーツク海の北海道沿岸での流氷は記録的な少なさ、流氷期間の短さでした。
この年、網走湖のアザラシは正月からほぼ毎日見ることができ、流氷が早々に無くなっても湖の氷の上にはその姿がありました。
3月下旬頃からは網走湖の氷も急速に融けていくのですが、それでも氷が残る湖の奥へと移動しながら網走湖にとどまり続け、結局4月10日くらいまで確認できました。 その時は「流氷はとっくに無くなっているのになぜこんなに長く湖に居るのだろう?」と思っていましたが、 もしかしたら流氷が消えるのがあまりにも早過ぎて、海へ戻るタイミングを失ってしまったのかもしれません。
網走湖は観察しやすい場所として地元でも知られていますが、野生動物ですし、海へ出ていることも多いようなので必ず見られるわけではありません。 そしてどんなに可愛くても餌を投げ込むことは絶対にしないで、静かに観察しましょう。
文&写真:金指 功
網走では冬になるとオジロワシとオオワシという2種類の大変大きなワシを見ることができます。 翼を広げるとオジロワシは2〜2.2m、オオワシは2.4mにもなります。その迫力ある大きさと風格、鋭い眼を持った精悍な顔つきは私達を圧倒し、魅了します。
オオワシの全てとオジロワシの多くは冬の渡り鳥としてロシア方面から越冬のために道東、道北を中心に北海道各地にやってきて、春になると帰っていきますが、オジロワシには一部、道東や道北に通年生息しているものがおり、網走にも少数ながら通年生息しているオジロワシがいます。
10月に入った頃から少しづつ渡って来て見る機会が増えていき、流氷が近付く頃には網走の市街地でも空を見上げるとその勇壮な姿を見ることがあります。 流氷シーズン中は高い確率で見ることができるのですが、オジロワシ、オオワシ共に実は大変数が少ない希少種で、国の天然記念物にも指定され、絶滅危惧種として様々な法律で保護されている野鳥でもあります。
両種とも主食は魚ですから、海、川、湖などの近くに居る事が多く、他には水鳥などの野鳥を捕らえたり、海岸に打ち上げられたクジラ、アザラシ、トドなどの死骸も好物でトビやカラスなどと一緒に群がったりもします。
網走では海岸沿いの他、網走湖、濤沸湖、能取湖などで見ることができますし、流氷シーズン中は砕氷観光船「おーろら」からも網走港の防波堤や消波ブロックにとまっていたり、流氷の上で羽を休めているワシの姿を高い確率で見ることができます。
流氷が無いときはいつでも戻れる岸辺近くで餌を探しますが、流氷が来るとワシ達は捕らえた魚を食べたり、羽を休める場として流氷を利用できるため、沖に出ることも多くなります。 流氷がくればワシ達の餌場が増えることになるのです。
海岸沿いを車で走っていると、偶にある1箇所に多くのトビやカラスに混じり、これまた不自然なほど多くのオジロワシ、オオワシが興奮気味に集まっていることがあります。 そんな時は先に述べたとおり、海岸にクジラやアザラシなどの動物の死骸が打ち上がっている事が多いです。
さすがのオジロワシ、オオワシも健康なアザラシの成獣を襲うことは無いと思いますが、2009年3月にちょっと面白いシーンを見ました。 網走湖の氷の上に1頭のアザラシがおり、それを観察していたところ、少し離れた氷上に、ある1点をじっと見つめる1羽のオジロワシに気が付きました。 そのオジロワシの視線を追うとそこに居るのは私が観察しているアザラシでした。 そしておもむろに舞い上がると低空飛行のままアザラシの方へ。
私はアザラシの上を通過して対岸の呼人半島へ行くものと思いましたが、なんとアザラシに襲い掛からんとばかりに直近に降りたのです。 アザラシはびっくりして近くの穴から水中へ逃げていきましたが、このオジロワシ、もしかしたらそのアザラシが死んでいるか、衰弱していると思ったのかもしれません。 この時の様子は私のガイド「オホーツク遊楽倶楽部」のホームページにある ブログ「オホーツクだより」の2009年3月28日の日記 に数枚の写真と共に書いていますのでよろしければご覧下さい。
大変立派で貫禄あるオジロワシ、オオワシですが、とても警戒心が強く、神経質な野鳥です。 流氷シーズン中は道端の樹木や電柱に止まっていることもありますが、観察される際はぜひある程度の距離を置いて双眼鏡やフィールドスコープを使い、オホーツクの空の覇者に敬意を払いながら静かに観察するようにしましょう。
東京生まれ埼玉育ちの私が初めて北海道を訪れ、流氷を見たのは1985年3月でした。 札幌からの夜行列車で網走駅に降り立ち、乗り継いだ釧網線の列車が桂台のトンネルを抜けた瞬間、車窓から目に飛び込んできたのは網走港を埋め尽くし、更に遥か水平線の彼方まで広がる大流氷原! この時の感動は今でも忘れられません。 流氷に一番近い駅として知られる北浜駅で列車を降り、改めてホームから流氷を見ているといったいどこまでが陸でどこからが海なのかが分からず、「本当にこれが海なのか・・・」と言葉を失いました。
この旅行ですっかり北海道に魅了された私は、その後20年近く旅行者として北海道を訪れているうちに移住を決意。 2004年に知床のホテルでの半年間のアルバイトを経て網走に移住しました。 そして2007年2月から網走自然ガイドとしてホームページを立ち上げ、網走の魅力をお伝えしているほか、近隣の博物館の動植物調査のお手伝いもさせていただいています。
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